こんにちは。 Dr. Noriです。
今回は在宅医療の現場で癌性胸水による呼吸苦にどう対応するか解説していきます。
癌性胸水に利尿剤は有効ではありません
胸水が貯留すると肺を圧迫して換気できる容量が減るため酸素を取り込みにくくなります。
心不全などが原因の場合利尿剤はとても有効ですが、癌が原因で胸水が貯留する場合は利尿剤による効果は乏しく、胸水を減らすことが難しいのが通常です。
点滴はしないほうが苦しくない
癌の患者さんは、経過とともに癌が進行することに加え食事量も減って栄養状態も悪化していきます。手足や顔が痩せてきてあばら骨が目立ってきます。
一方、むくみ(浮腫)や腹水・胸水などがたまりやすい状態になります。
この状態で点滴をすると浮腫や腹水・胸水がさらに増えてしまい、お腹が張って苦しくなったり、息が苦しくなるなど苦痛が増えてしまうことがあります。
したがって点滴を行わない方が苦痛を増やすことを避けることができます。
麻薬を積極的に使う
肺が胸水に圧迫されているため、酸素を投与してより多くの酸素を取り込めるようにするのは有効です。しかし、酸素投与による呼吸苦の改善には限界があります。
そこでモルヒネを中心とした麻薬を使います。麻薬は直接呼吸苦を取り除くわけではありませんが、感覚を麻痺させることで苦痛を緩和することができます。
それでも呼吸が苦しいときはどうするのでしょうか?
穿刺して胸水を抜く
酸素投与や麻薬を使用しても呼吸苦が辛いようであれば肺を圧迫している胸水を抜くしかありません(胸水穿刺)。
しかし、胸水穿刺で胸水を抜いても再び胸水が溜まってしまいます。胸水穿刺による呼吸苦の軽減は一時的なものです。
頻回に胸水穿刺が必要な状況であれば癒着術を検討します。
癒着術は太いドレーンチューブ(廃液チューブ)を挿入・留置して胸水をしっかり抜いてから行います。胸水が抜けたら肺と胸郭(臓側胸膜と壁側胸膜)を癒着させる薬剤を注入します。
薬剤注入後に一時的に痛みや発熱が見られることがあります。この方法で完全に胸水が溜まらなくなるわけではありませんが、再び多量の胸水がたまることは避けることができる点がメリットです。なおこの癒着術は病院にて行います。
自宅で療養している場合は、太いドレーンチューブを挿入したり癒着術を行うことが出来ないので、一時的に症状を緩和することを目的として胸水穿刺を行うか、細いチューブを留置(挿入留置は病院で行うことがあります)して自宅で胸水を抜けるようにする方法があります。
最後は薬で鎮静する
入院したくない、最期まで自宅にいたいという希望がある場合や癒着術を行える全身状態でない場合に、薬剤(麻薬やミダゾラムなど)で眠らせて(鎮静)呼吸苦を緩和する方法を相談します。
終末期の状態に鎮静を行い、鎮静後は会話が出来なくなることがあるので、十分に説明と同意を得る必要があります。
今更聞けない…事 次に使う時には忘れてしまっている機器の取り扱いなどなど 教科書的でとても助かります 一人で出向く訪問の強い味方になりそうです