処置・手技

在宅での末梢点滴の限界と皮下点滴について

Pocket

こんにちは。 Dr. Noriです。

今回は末梢点滴の限界と皮下点滴について考えてみたいと思います。

在宅での末梢点滴は目的はなにか?

入院中に点滴をして、退院するにあたり自宅でも点滴を継続することがあります。

点滴の目的はいろいろですが、食事がとれない、水分がとれないなどが点滴継続の理由かと思います。

実は末梢点滴では十分な栄養は確保できません。なぜならば点滴内のカロリーが低いのです。

抹消点滴の限界と皮下点滴の限界
  • 末梢点滴はカロリーが低い
  • 末梢点滴は長期間行えない
  • 皮下点滴は投与量が安定しない

末梢点滴でどのくらいのカロリーが補給できるのか?

主な末梢輸液製剤のカロリーは次のようになっています。

ソルデム3A 500ml 86kcal
ソルデム3AG 500ml 150kcal
5%ブドウ糖液 500ml 100kcal
ラクテック 500ml 100kcal
生理食塩水 500ml 0kcal
ビーフリード 500ml 210kcal

いかがでしょうか?ピンときましたか?

コンビニのおにぎり1個のカロリーが約170kcal〜、サンドイッチが約200kcal〜、ハーゲンダッツのバニラが244kcalと聞けば少しイメージできるでしょうか?

一日に必要なカロリーは、活動量の少ない成人女性の場合は、1400~2000kcal、男性は2200±200kcal程度が目安です(農林水産省資料より)。
高齢者で活動性が著しく低い場合は、もう少し少ないカロリーでよいことになります。

仮に一日1000kcalを末梢点滴だけで補うとしたら、どのくらいの点滴をしなければならないのでしょうか?

5%ブドウ糖液の場合、5000ml(500mlのボトルを10本)も必要となります。

この量を一日で点滴するの現実的ではありません。ボトルの交換が頻回に必要になります。
水分が5Lも体内に入ると、心臓が悪い人の場合心不全になったり、腎機能の悪い人や栄養状態の悪い人はむくみがでたり、胸水や腹水が増えたりと全身状態をかえって悪化させてしまいます。

では、末梢点滴はなぜカロリーが低く設定されているのでしょうか?
点滴の中に含まれるカロリーが高ければ良いのでは?という疑問がわくと思います。

カロリーが高くない理由は、カロリーを上げると血管が炎症を起こしすくなるからなのです。

カロリーの高い輸液(高カロリー輸液)を行う場合は、太い静脈(中心静脈)に挿入されたカテーテルや留置されたポート(CVポート)から投与されます(高カロリー輸液)。
中心静脈栄養については別に解説したいと思います。

末梢点滴の継続には限界がある

通常、点滴は肘から先の腕(前腕)に留置します。
中心静脈に対し目で見える手足の末梢静脈という細い血管に針をさして細い筒状のものを留置して点滴と接続します。

この留置したものはしばらくすると血管が破れて点滴が血管周囲に漏れ出たり、血管に炎症を起こしたりすることがあります。
また、感染予防の点から一定期間経過したら刺し替えて新しいものに交換するのが通常です。

点滴が漏れ出るとその周囲が腫れてしまいます。炎症を起こした場合も同様です。
腫れてしまった付近に針を指して細い筒を留置することができません。一定期間経過後の刺し替えの場合も近い場所は避けるようにします。

そうなると刺す場所も回数を重ねるたびにどんどん減って行きます。
高齢者や病気の方の血管は健常者に比べ細くて脆弱なことが多いため、新しい場所に刺すのが容易でないことは珍しくありません。

これが末梢点滴の限界です。

末梢点滴ができない場合どうするのか?

末梢点滴の目的に立ち返ってみましょう。
栄養補給なのか、水分補給なのか区別して考えてみたいと思います。

栄養補給が目的であれば、本来は末梢点滴はあまり適していません。

中心静脈栄養や経管栄養(胃ろうなど)であれば、十分なカロリーを投与することができます。したがって末梢点滴は水分補給が中心となります。(厳密には電解質の補正等の目的もありますが、在宅では主に水分補給が目的が多いと思います。)

末梢点滴での水分補充が血管確保ができない理由で継続できない場合、皮下投与に変更することが可能です。

点滴の組成上、皮下投与は生理食塩水などの等張液や一部の薬剤が可能とされていますが、他の組成の点滴でもトラブルなく投与することが出来ることが経験的に知られています。(添付文書上皮下投与可能とされているものと、経験的に可能とされているものがあることに注意が必要です。参考:日本緩和医療学会のガイドライン

皮下点滴の実際

皮下に投与された点滴内容は皮下組織からゆっくりを吸収されます。

そのため点滴量を多くすると点滴を留置している部分がむくみやすくなったり、点滴の滴下速度(点滴量)が不安定になります。したがって、一日に投与できる量が末梢点滴より少なくなります。一日に500〜1000ml程度が現実的ではないかと思います。

点滴速度がゆっくりのため速度調整が難しく、点滴チューブも少量ずつ滴下するものを使用したりします。

点滴を継続して行う目的を確認しつつ、末梢点滴を継続するのか、皮下点滴も行うのかなど患者さん本人やご家族などとよく相談して決定することが大切です。

関連記事:病院での点滴と自宅での点滴の違いー在宅で末梢点滴をする場合の注意点

関連カテゴリー記事

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください